OUTLINE スロープの家・CUBE
PROCESS 設計関連(土地探しから設計まで)
高齢の母とラブラドールのためにスロープの家を建てて欲しい
愛犬:ラブラドール レトリーバー2匹と暮らす市川市内に建てた愛犬家住宅[スロープの家シリーズ PART3]です。
スロープの家を希望されるご姉妹とラブラドール2頭が暮らす家ということですが、他のスロープの家シリーズと違うのは、現在住まわれている築35年以上の住宅を解体し建て替えるというものでした。
以前にも高齢犬を介護した経験があるとのことで、階段での生活に不安を覚え、スロープの家を希望されているとのことでした。
早速、初面談に備えて、敷地情報の整理や参考事例をまとめました。
現在は都市計画情報がwebで調べられるので、とても便利になりましたが道路情報についても全てネットで容易に調べられるようになるとありがたいですね。
※土地計画概要は参考イメージ
敷地面積約37坪の敷地の中でスロープの家を計画してみましたが、プランとして成立はするのですが部屋の面積がどうしても小さくなってしまします。
スロープの勾配は建築基準法で下記のように定められています。
建築基準法施行令第26条(階段に代わる傾斜路)
1項 階段に代わる傾斜路、次の各号に定めるところによらなければならい。
1号 勾配は、1/8をこえないこと。
垂直距離1mを登るのに8mの水平距離が必要になるということです。
一般的な住宅で考えると、1階分を登るのに約23mの水平距離が必要になります。
階段に比べ多くの面積を必要とするスロープの家を計画する場合はそれなりの敷地面積が必要となるわけです。
今回の敷地は約37坪
スロープの家ではミニマムな敷地面積だと思います。
そこでクライアントさんの要望を反映したプランを作してみると居室の面積に比べ、通路(スロープ)の比率が高いプランになってしまいました。
そこで、ゆったりした階段のあるプランを提案してみました。
ゆったりとした階段はスロープでは勾配が少しキツくなりますが、水平距離が短くなるのでるので平面的には有利になります。
一般的な階段・ゆったり階段・スロープでの勾配を比較すると下図のようになります。
スロープが階段になった分、部屋の面積は広くとれる提案ができました。
お施主様に説明したところ、「先生はどちらのプランがお薦めですか?」との質問が・・・『はい、スロープ案です!』と即答したところ、「私たちもそう思います。」とこれまた即答
足が弱った大型犬(老犬)とご家族の介護を考えると、「スロープ」は必須のアイテムなのです。
コンセプトを明確にしていると、双方の共通理念としてプロジェクトを進めることができることを今回も感じることができました。
ちょうど、”スロープの家・卍」”オープンハウスが近日中に開催される予定だったので、スロープの家を体験できる良い機会なので招待しました。
オープンハウス”スロープの家・卍”に参加
私たち建築家は、ハウスメーカーと違ってモデルハウスを有していません。
特に「愛犬家住宅のためのスロープ体験」となると、事例がほとんどないために体験する場所が限られてしまいます。
そこで、クライアントさんのご好意により
実際に設計監理した物件の竣工前オープンハウスや既に住まわれているお宅にお邪魔して体感させていただいたりしています。
スロープの家シリーズ第2弾「スロープの家・卍」でのオープンハウス
こちらで実際に「勾配1/8のスロープ体験」と「半地下部屋の体験」をさせていただくことになりました。
スロープの家・卍でのオープンハウスは半日で40名という多くの来場者がありました。
そして、なんと [スロープの家 PART1] と [スロープの家 PART3] のクライアントさんが [スロープの家 PART2] に足を運んでいらっしゃいました。
[スロープの家 PART1] のクライアントさんは「我が家がきっかけになって、スロープの家がどんどん進化していくのは嬉しいものですね。」とのコメントまでいただき、つくづく [スロープの家] を推進してきた甲斐がありました。
そして、今回の [スロープの家 PART3] を計画中のクライアントさんは、「このくらいの広さが欲しいわね〜」との感想でした。
そこで急遽、現在検討中であった土地を売って、新しく土地探しからスタートすることになりました。
不動産は情報が命(家づくりのための土地探し)
クライアントさんが「散歩コースに売地を見つけたので地元の不動産屋さんに話を聞いてみました」との連絡をいただきました。
僕の土地探しをサポートしてくれる不動産会社にも、その土地のことを調べてもらったところ
すでに、買手が不動産取得に向けて交渉中(ローン審査中)との情報をすぐに提供してくれました。
しかし、地元の不動産屋さんはそんな情報は知らないようで、その土地の販売営業をかけてくる。
クライアントさんも不動産屋さんの情報収集能力のあまりの違いにびっくりされていました。
常に動いている情報を逸早く正確に把握するかが土地探しにおいて重要なのです。
僕の方で進めていた土地探しは、別の土地候補(6物件)情報をゲットした中で、スロープの家(42坪以上)が計画可能な土地を僕がセレクトし、その評価理由を明記し、クライアントさんに情報提供しました。そしてクライアントさんの第一希望の土地に、今まで検討していた構成のプランを面積を広げたプラン(42坪以上)にアレンジしてスロープの家が成立することを報告!
プランの調整は必要だけれども、夢のスロープの家が実現することを確認してもらい、いよいよ土地取得の手続きに入ります。
参考情報
家づくりを目的にした土地探しは、自分の夢を叶えるための基盤となりますので、建築家の視点によるアドバイスがとても重要です。候補地の大半は条件を満たさないことが多いので注意が必要です。
※土地探しの6候補のうち、4候補の落選理由
①2階建てでは成立しない
②建築条件付なので私の設計監理ができない。42坪確保できない
④道路環境は良さそうですが42坪確保できない。もし延べ面積39.58坪でよろしければ可能性あり
⑤42坪確保できない。予算オーバー(交渉によっては下がる可能性あり)
土地取得手続き(価格交渉・条件交渉は必須です)
東京周辺の土地価格はとても高価です。
都心においては建築価格よりも土地価格の方が高価な場合も多いので、
弊社では、少しでも土地価格を安く購入することで、総予算の中から建築にかける費用割合を高めるようにサポートています。
お付き合いのある不動産会社にお願いして、土地取得に向けての手続きを進めてもらいます。
その際に、価格交渉も合わせて行います。
不動産会社には、建築家としての視点からのコストダウンの理由を説明し、交渉に臨んでもらいます。
売主さんが企業ではない場合は、交渉の余地があるのでダメ元の金額から交渉してもらい
双方が納得いく価格で折り合いをつけます。
そして、めでたく土地売買契約へとつながります。
契約の直前に重要事項説明が義務付けられているので、不動産会社の担当者から詳しく説明を聞いてください。
購入する不動産に関する膨大な情報が記載されている重要事項説明書には専門用語が多いので、わからないことは質問するようにしましょう。
今回の場合は、クライアントさん所有の不動産の売却も同時に進めてもらっていますので、買主でもあり、売主でもあるのです。
売りたい不動産の場合には、不動産会社より調査・測量をしてもらい、販売価格の相場や土地条件から販売価格を決めていき、不動産販売情報を公開します。
一定の期間公開しても売れない場合には、販売価格を調整することも必要です。
今回のケースでは、新しい家が完成するまで居住していたいとの要望から、不動産引渡し時期を住宅完成後にしてもらう条件で販売してもらえることができましたので、仮住まいが不要になりました。
ペットと暮らしている場合は、仮住まいを探すのが大変なケースがありますので、引渡し時期についても交渉してもらうことが大切です。
※不動産売買の手続きを進めている間に、建築家はその敷地での可能性をさらに追求している時期でもあります。
スロープの家・CUBE(書院造りを立体的に展開した愛犬家住宅)
新しい敷地での可能性を探り続けて、たどり着いたのが「スロープの家・CUBE」
コアとなる正方形の「CUBE」をコの字型にスロープが取り囲む形態を選択しました。
屋外から室内へ、そして室内からルーフテラス(囲まれたドッグラン)へとスロープでアクセスできるプランです。
土地購入を検討した際に当てはめたプランから進化させた全く階段のない愛犬家住宅は
要介護のご家族もいらっしゃることもあり、徹底的にスロープにこだわりました。
※新プラン「CUBE」
模型で見ると空間構成がよくわかります。
書院造りの建築は部屋を回廊が取り囲む構成となっていますが、
このスロープの家・CUBEでは、その回廊を立体的に展開した構成へとデフォルメしています。
「スロープの家」といっても、構成は様々
敷地条件、家族構成、犬種、飼い方等によって変容するものです。
愛犬と快適に暮らすのための工夫
1階から屋上ドッグランへ繋がるスロープ
この家には階段がありません。
1階の玄関から屋上ドッグランまで、バリアフリーに繋がるようにスロープを回廊のように配置しています。
このスロープ自体が立体的なドッグランでもあるので、雨の日でもそこそこの運動をさせることも可能です。
また、外周がスロープで囲まれることになるので、室内での無駄吠えの音が外に漏れにくいというメリットがあります。
このことは周囲からの騒音からも守られているということでもありますので、落ち着いた環境で愛犬たちものびのびと生活できる環境が形成できます。
また、長いスロープはギャラリーとして使用できるように、ピクチャーレールが付けられています。
⬆︎1階から2階へ繋がる屋内スロープ Photo by Gen Inoue
⬆︎1階から2階へ繋がる屋内スロープ
⬆︎2階から屋上ドッグランに繋がるバルコニー Photo by Gen Inoue
⬆︎2階から屋上ドッグランに屋外スロープ Photo by Gen Inoue
⬆︎2階から屋上ドッグランに屋外スロープ
⬆︎2階から屋外スロープによって繋がった屋上ドッグラン Photo by Gen Inoue
⬆︎2階から屋外スロープによって繋がった屋上ドッグラン Photo by Gen Inoue
⬆︎2階から屋外スロープによって繋がった屋上ドッグラン Photo by Gen Inoue
⬆︎屋上ドッグランで遊ぶ家族と愛犬 Photo by Youko Nakamura
中庭を囲んだ空間構成
外周をくるりと囲んだスロープ
その内側に居室を中庭を併設することにより、十分な採光、換気を確保するしています。
周囲の目線を気にすることなく生活できるコートハウス(中庭のある家)はスロープの家には最適です。
⬆︎屋上ドッグランから中庭を見降ろす
⬆︎客間より中庭を望む
⬆︎中庭より見上げる
⬆︎中庭のデッキテラスにもスロープを配置
ドッグシャワー
愛犬たち専用のバスルームです。
外部から直接入ることができるので、外で泥だらけになった時もこのシャワールームを経由して、綺麗にしてから部屋に入れることができます。
飼い主さんも一緒にシャワーを浴びることもあるそうです。
⬆︎玄関脇にあるドッグシャワー入口
⬆︎ドッグサニタリーから見たドッグシャワー Photo by Gen Inoue
床仕上
滑りにくく、粗相時の汚れや水に強く、傷に強い床材として、
屋外はコンクリート刷毛引き仕上げと磁器タイル、そしてアクセントに肉球タイルを配置しました。
⬆︎コンクリート刷毛引き(スリット部タマリュウ)と肉球タイルの外構仕上げ Photo by Youko Nakamura
⬆︎玄関ポーチやタイルデッキは磁器タイル張
屋内は床暖房対応の磁器タイルを張りました。
表面がザラザラしているので、爪研ぎが不要になったそうです。
⬆︎主寝室内の床仕上げ(磁器タイル)
⬆︎LDK室内の床仕上げ(磁器タイル)
壁仕上の工夫
ラブラドール・レトリバーのような大型犬は歩行時に尻尾を大きく左右に振る癖があります。
そこで、壁が傷つきにくく、汚れが直ぐに拭き取れるようにロシアンバーチの腰壁(H=2000mm)の高さで張っています。
⬆︎ロシアンバーチの腰壁張のLDKと廊下
ペットスペースの工夫
目線の高さの1.5倍程度の天井高さがくつろぐにはちょうど良い高さ
外周を取り巻くスロープの下の空間はペットスペースや収納として利用するので、空間の無駄がありません。
ペットトイレの工夫
⬆︎換気扇、照明、トイレグッズ置場となる棚を用意したペットトイレ
キッチンの工夫
⬆︎オープンキッチンの大型犬侵入防止には丈夫なキャビネットドア Photo by Youko Nakamura
ペットダイニングの工夫
愛犬のトイレトレーニング同様、食べる場所を教えることも大切です。
床に、食器を置けば良いという考え方もありますが、老犬に負担の少ない程よい高さのテーブルを用意しました。
食事以外の時はスライドして棚の中に収まりますので、邪魔になりません。
⬆︎食事の時はスライドテーブルを引き出して使用します。 Photo by Youko Nakamura
上空から観たスロープの家・CUBE(ドローン撮影)
⬆︎南面上空より望む Photo by Gen Inoue
⬆︎西北面上空より望む Photo by Gen Inoue
動画(ドローン撮影)
動画で観るとこんな感じです。ラブラドールが飼い主さんと一緒にスロープを経由して屋上ドッグランへ行き来している様子がご覧いただけます。
ドローン撮影(動画) Photo by Gen Inoue
関連記事(詳しくは web magazineで説明しています。)
作品集(サイト内):スロープの家・CUBE