屋根のカタチにみる創意工夫
屋根のカタチ
生活空間にとって原型と言ってもいい「屋根」のカタチはとても重要です。
屋根は特に道路斜線や高度斜線という法規制の影響を受ける部分でもあり、その規制をクリアしながらのデザインでもあるのでとても神経を使う場所でもあります。そして、その建物の見栄えを整えることで、はじめてファースト・プレゼンテーションに望めます。
スロープの家ではスロープの形状そのものを屋根のカタチとして創出しました。
眺望を楽しめるルーフテラスが欲しい
住宅密集地なので屋上を庭として活用したい
フラットルーフが好き・・・
いろんな事情から陸屋根(フラットルーフ)にすることは少なくありません。
FRP防水が進化したおかげで、揺れによる多少の変形にも追随する防水性能が確保できるので、木造住宅でも容易にルーフテラスをつくることが可能になっています。
桜並木のある運河に隣接するロケーションを活かし、各居室や浴室からも眺望を楽しめるようにルーフバルコニーやルーフテラスを用意しました。
眺望を遮らないように、手摺もスッキリとデザインしています。
一方、北側は隣接するマンションからの視線を遮断しプライバシーを確保しています。
雨露をしのぐ
強い日射しから身を護る
居場所を明確にする
太古に存在した人達は、洞窟や大きな樹の下で体験した快適な環境が空間づくりの原型だったのだと思います。
私にとって、木立の下で木漏れ日を楽しめる樹はまさに屋根そのものです。
既にそこに在った快適な木漏れ日そそぐ環境そのものを屋根の一部として活用してみました。
木漏れ日注ぐ屋根に覆われたウッドデッキテラスです。
片流れ屋根・・・切妻屋根とならびポピュラーなカタチです。
長辺方向に長い片流れは大きな屋根となり、とてもインパクトのある雰囲気を演出します。
傾斜のある屋根には雨樋がつくケースが一般的ですが、樹木の多い場所では、落ち葉等で樋が塞がってしまうことがあるので取付けないケースもあります。
この計画では、大屋根を斜めに分断する巨大な樋を設け、そこから大地へと浸透させる手法を取り入れています。
家のイメージといえば家型(切妻屋根)が一般的な記号としても認識されているようです。私の設計事例には切妻屋根の家型を採用する際には壁と屋根が連続するようにデザインしているのが私の好みです。
建築物の高さ制限の中で、もっとも厳しいのが第一種高度地区による規制(垂直方向へ5m立ち上がったポイントから真北方向へ1.0m/0.6m)という勾配の斜線範囲内において建築可能というものです。
多くの建築物がこの斜線規制により欠き取られた勾配屋根になっていますが、その斜線の範囲内で、曲面や多角形の屋根にすることで屋内の空間を優しく包むことができます。
その屋根に包まれた屋内空間
陽射しの採り入れ、雨水の処理、高度規制等を勘案しながら
意匠的に検討していくと、面白い形態が生まれることがあります。
内部空間の1/4階ずつスキップしていく空間構成に呼応して生まれた形なのですが、
二つの片流れ屋根の勾配方向を変えて組み合わせだけの単純なものです。
外観の見え方としてどうか?
その屋根を室内から見るとどう見えるか?
移動する際に見え方がどんな風に変化していくのか?
部屋の空間の大きさとして適したものか?
光をどのように取り入れるか?
雨樋はどんな風に取り付けるか?
透明な壁の模型を作ることで、空間の演出について多様な側面から検討を重ねていきます。
イメージが浮かばない
イメージが浮かんだけど空間として適していない、法規制を満足させない
イメージをリセットする
そんな繰り返し・・・
設計を進める上でとても重要で大変なプロセスでもあるのですが、
そんなことが大好きなので、個人的には充実した時でもあるのです。
勾配屋根の見え方は、立面図(建築するために作成する正面から見た図面)と印象が異なります。
それは遠くに行くほど物が小さく見える視覚によるものです。
左側:創建時復元正面図 右側:元禄の修復後正面図(現在)
現在の唐招提寺金堂正面図を見ると、
実際の見え方とかなりプロポーションが異なっていることがわかります。
つまり、美しく見えるように見え方を計算して作られているのです。
そして、近づくにつれて屋根から軒裏に視線が変化していくと
構造的かつ意匠的にも工夫を凝らした軒裏が人々を迎え入れてくれます。