陰影をデザインする

陰影礼賛(いんえいらいさん)

文学に学ぶ・・・
文豪;谷崎潤一郎氏の随筆で、日本の伝統美を陰翳の中に見出す興味深い作品です。この随筆は私にとっては最高の参考書になりました。

—<前略>—
左様にわれわれが住居を営むには、何よりも屋根と云う傘を拡げて大地に一廓の日かげを落し、その薄暗い陰翳の中に家造りをする。
—<中略>—
美と云うものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを餘儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った。事実、日本座敷の美は全く陰翳の濃淡に依って生れているので、それ以外に何もない。
—<後略>—
※出典:陰翳礼讃より

便利さを追求すると明るい空間が求められることが多くなりますが、人は本来、暗がりとも共存してきたために、どこか落ち着く、どこか畏怖を感じたりという感性を養って来たのでしょう。

日本の伝統的な家屋に在る「闇を纏った薄暗い天井」と「光が這う座敷の床」という空間演出手法はこの随筆に学んだものです。

 

■木漏れ日屋根の家
木漏れ日注ぐ樹木の微かな陰翳そのものを屋根と見立てた空間です。

木漏れ日 ウッドデッキテラス

 

■光が這う座敷の床と闇を纏った薄暗い天井の書斎

陰影 書斎

 

陰影

日本では陰影という一つの概念でとらえられる事が多いようですが西洋や中国では陰と影とを明確に分けて扱われているようです。

陰:shade(一つの物体に見られる光の当たっていない部分)
影:shadow(光を通さない物体が遮ることで投影される影法師)

光 スカイツリー

影 スカイツリー

 

洋の東西を問わず
光があたるところに陰影がうまれます。
光が強ければ強いほど陰影は強く鮮明になります。
視点を変えてみる事で気付かされる二面性は空間づくりのポイント明るい部屋を造ってください!という要望に対して、僕の頭の中では陰影をどうデザインしようかと思考が巡り始めます。

 

 

陰影をデザインする1

大草原に一本の樹があります。 貴方がここでくつろぐにはどうしますか?
陰影 

 

明るさという感覚は人ぞれぞれ・・・
抽象的で曖昧なものです。
対話の中からそのイメージをサルベージするときにする話ですが、
おそらく ほとんどの人が樹木の木陰でくつろぐイメージを持つことでしょう人は木陰を好むようです。
木陰に佇みながら明るい場所を望む環境を求めているようにも感じます。
深い庇に庇護された縁側から望む庭の美しさは、まさに陰影のデザインによる演出です。

 

陰影

 

 

陰影をデザインする2

既にそこに在った
だから
なにもしない
陰影 木漏れ日

この敷地を訪れた際の第一印象です。

木々の枝葉の隙間から木漏れ日がそそぐ場所には、
常に変化する陰影を創り出す樹木の屋根がそこに在ったのです。

 

陰影 木漏れ日 ウッドデッキテラス 濡れ縁

建築家がすることは、その環境を住環境に融合させること
ただ それだけ・・・

 

 

陰影をデザインする3

白い天井
白い壁
白い床
クライアントさんからのリクエスト
それは光のデザイン
すなわち 陰影のデザイン
白い空間
光と陰影が織りなすグラデュエーションで応える
建築主と建築家とが織りなす創造

陰影をデザインする4

シラス壁を使いたい・・・

そんな要望に対して
それを効果的に魅せるには
壁に光を這わせることで、陰影をデザインすること

陰影 シラス壁

陰影 シラス壁

天空からの光を楽しむ家

※出展:Wikipedia
シラス壁(しらすかべ)とは、火山噴出物 シラスを主原料とした建築材料である。 白洲壁、白州壁と表記することもある。

 

 

陰影をデザインする5

周囲を囲まれた環境でも、1階に明るいLDKをつくりたい

そんな相談をいただくことが多いです。

立地環境に応じて、いろんな手法を効果的に使えば
不可能なことではありません。

中庭、吹抜、スカイライト、ハイサイドライトを使った例です。

陰影 吹抜け トップライト 天窓

工事中はこの吹抜けが足場で塞がれていて明るさに不安を持っていらしたクライアントさんですが、

ちょうど現場に足を運ばれたときに、その足場が取り払われている瞬間を目撃され、光がそそぎ始めた感動が忘れられませんとの嬉しいお言葉をいただきました。

 

陰影 光

全てが光の空間ではなく
影の部分があるからこそ
空間に感動が生まれるのだと感じた瞬間

 

中庭のある黒い家

 

 

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著者情報

前田 敦 / atsushi-maeda

前田 敦 / atsushi-maeda

犬と猫と快適に暮らせる社会の実現を目指して、ペット共生住宅に特化した設計活動を行っている建築家
設計作品の中でも特に注目すべきは、ペットがストレスなく自由に走り回れることを重視して設計した「スロープの家」シリーズです。これまでの住宅設計にはない新しい発想から生まれたもので、独創的なコンセプトと緻密な設計が注目を浴び、テレビ、ラジオ、雑誌、新聞といったさまざまなメディアで紹介されています。

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